この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Memory of Night 2
第32章 雪

「こういうの好きだったっけ」
亮はいつも淡白だった。いつもと言っても、何年もセックスはしていなかった。ちょうど一週間ほど仕事をバックレた時からだ。時折呼ばれ、部屋でまた体を繋いだ。あからさまな、わかりやすい変化だった。
新しい店舗を任せたいから、今自分に機嫌を損ねられたら困るのだろう。
亮は最近、昔のように理由を取り繕わなくなった。もうその必要はないと思っているのだろう。
「くだらな……」
春加はスウェットパンツを自力でほどき、拘束を解いた。本気で逃げられないよう縛ったわけじゃない。抜けるのは簡単だった。
(逃げるわけないって思ってんだろ……)
形だけの、こんな雑すぎる演出くそくらえだ。
春加は煙草を咥えた。本当に一本だけ残して全部持っていきやがって、と悪態をつく。
空(から)になった箱を握り潰し、ごみ箱に投げた。縁に辺りカーペットに落ちる。春加の家と違い、殺風景で何もない綺麗な部屋に、煙草のごみはかなり目立った。
ふとベッドの横のカーテンを開くと、雪が舞っていた。
「どうりで、寒いはずだわ……」
この地域では頻繁に雪は降らない。一度も降らない年もあるし、多い時でも年に数回程度だ。一月や二月に降ることが多いが、たまに十二月にも降る。けれど、十一月に初雪は珍しい気がした。
ーーまた、全てを覆い隠されてしまう。
春加はしばらく頬杖をつき、窓の外を眺めていた。

