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Memory of Night 2
第36章 洞穴

塊が落ち、砂煙が舞う。春加は頭上を見上げ、洞穴と共に自分の世界が崩壊していくのを、虚ろな瞳で眺めていた。
「春加!」
自分を呼ぶ声がした。ここから出ろとしきりに叫んでいる。それは洞穴内で幾重にも反響し、不協和音になって脳髄の奥まで揺らした。入り口を一瞥すると、月明かりの中逆光になり、シルエットだけが映る。
春加は驚きに目をみはる。まるで桃華の亡霊が立っているかのようだった。
ーーまた、あの日のことを責めにきたの?
春加は自らの意思で、それを遮断した。
ーー楽になりたかった。
発作のような強い衝動が、心の奥で蠢いている。
春を願う。新しい季節の訪れを願う。安寧を願う。拠り所を願う。忘却を願う。解放を願う。
ーー全部捨ててしまいたいと何万回も願った。ずっと願い続けていた。
叶わないならいっそ、開いてしまったパンドラの箱を抱えて死んでしまいたい。
轟音が鳴り響いた。再び舞い上がる土煙。地割れと共に壁も崩壊し、大きな塊がそこかしこで落ちた。
見上げていた上部の壁が崩壊し、頭上に落ちてくるそれを視認した瞬間ーー。
衝撃は真横からだった。体当たりされ、弾き飛ばされた春加の意識はそこで途切れた。

