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Memory of Night 2
第37章 パンドラの箱

 桃華は高校を卒業し、家から少し離れた二年制の短大に通っていた。自動車免許を取るまでの数ヵ月は電車での通学だったが、ある日千鶴が帰ると家の前にパトカーが止まっていた。二人の警察官に挟まれていた桃華の後ろ姿が視界に入り、千鶴はなんだろうと門の陰から盗み見た。
 何か、怖いことがあったのだろうか。

「まあ、この子が痴漢に?」

 母の声が響き渡る。

(ちかん?)

 千鶴はよく意味がわからず、さらに耳をそばだてる。物陰から出ていける雰囲気ではなかった。お巡りさんがいる、それだけで、とてもよくないことがおきたのだと直感でわかった。

「電車は危険だな……」

 母の隣には父もいた。

「電車じゃなくたって、夜道を歩くこともあるでしょう? ねえ、護身用に何か習わせましょうよ」

 母の案に警察官は頷いた。

「そうですね、それがいいと思います。とても綺麗なお嬢さんだ、電車に乗るならなるべく人が多く乗る時間帯は避けた方がいいし、できるなら他の通学方法もご検討ください。よろしければ、こちらもお使いください」

 防犯用のブザーを警察官は桃華に差し出した。それを無言で受け取りつつ、不愉快そうに灰色の瞳を細める桃華。一瞬だけ見せたその顔の意味を読み取るには、まだ千鶴は幼すぎた。千鶴は目を凝らし、警察官が去っていくまでの間物陰から覗いていた。
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