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Memory of Night 2
第50章 episode of 0
「も、もも……」
突然のことに驚きすぎて、呂律がまわらない。
秋広は無意識のうちに、昨日蹴られた腹をさすっていた。なんとなく、痛むような気がする。
秋広の前に現れたのは、恐れていた警察ではなく作業着姿の桃華本人だった。
桃華は「お疲れ様です」と儀礼的な挨拶を口にしたあと、単刀直入に聞いてきた。
「……昨日家に来たの、あたしの財布届けるためだったんだ」
「え、あ、はい……」
「なんで言わなかったんだよ」
「なんでって……」
言えるタイミングなどあったろうか、と思う。
裸で桃華が現れた時点で、もう脳内はパニックになっていた。
「部屋に勝手に入ったのはなぜ?」
桃華は腕を組み、睨むように秋広を見つめている。鋭い視線に秋広の心拍は上がった。
「その……もし倒れていたらって思ったら、つい……」
呼び鈴を鳴らしても鳴っているかどうかわからず、呼びかけても応答がない。おまけに鍵も開いている。いろいろな事態を想定してしまった。だがやはり、部屋の中で倒れていたら、が秋広を衝動的に動かした、一番の要因だった。
嘘ではなかったが、自分で言っていて嘘っぽいな、とも思った。よくよく思い返してみれば、相澤からは桃華の体調はそこまで悪いわけではなさそうと聞いていた。

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