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玉蘭花の香り
第1章 婚約
「えっ?
私は普通のマッサージだったよ?
痛かったけど」と答えた。

「ふーん?
なんだ、勿体ない。
そっちの方は、アンディほど若くはないけど、
ハンサムで長身で素敵だったのにね」と言った。


私はそのことより、
優子さんの発言が気になっていた。


「駿先生?」

これまでは苗字で呼んでたのに、
何で下の名前で呼んでるのかしら?


引っ掛かってはいたけど、
約束の時間が近づいていたので、
そのことは特には訊かなかった。


夕食は、日本人学校の先生をやっているという恩師と食事をすることになっていた。
長らく台湾に住んでいるせいか、
日焼けしてすっかり現地の人のようだった。
人数居た方がたくさんの種類を食べれるからと、
学校の同僚も連れて来てくれた。


店先に海鮮素材が並んでいる処に連れて行って貰い、
あれこれ楽しく食べて飲んで話をたくさん聞いた。
それが自分の今後に役立つとは、
その時は思いもしなかった。


ホテルに帰ると、ロンからLINEが来た。


「夕食はどうでしたか?」

「こんなの食べました」と画像も添えてみた。

「明日の飛行機は何時ですか?」

「お昼前辺りです」

「松山ですか?」

「はい。そうです」

「見送りに行きたいけど仕事です」

「わざわざ見送りは不要です」

「ホテルはどちらでしたか」

「オークラです」

「判りました。おやすみなさい」

「おやすみなさい。今日はありがとうございました」



30分ほどすると、フロントから内線があり、
「フロントまで来ていただけますか?」と言われた。

何事かと思いながら1階に行くと、
フロントの前にロンが立っていた。


「夜分に申し訳ありません。
これ、父から美香さんにと。
明日は気をつけてお帰りください。
おやすみなさい」と言って、
立派な紙袋を渡された。

「そして、これは僕からです」と笑いながら、
白い花をワイヤーで丸く束ねたものを渡した。

「枕の横に置いて眠ると、良い香りがします」と言うと、
お辞儀をして、スタスタと帰ってしまった。


フロントの男性に、
「これは何ですか?」と訊くと、
メモ用紙に「玉蘭花」と書いてくれた。

とても濃厚で甘い香りを放っていた。
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