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世界で一番身近な女
第5章 両親の帰宅

紗希と大介が、にらみ合いしていると、
一台のタクシーが玄関先に横付けされた。

タクシーから降りてきた熟年の男女を見て、
紗希も大介も「えっ?」「あれっ?」っと驚いた声をあげた。

タクシーから降りてきたのは父の洋介と母の希美枝だったからだ。

「お母さん!どうして?」

「どうしてもこうしてもないわよ
慣れない海外旅行で疲れちゃって、一便早い飛行機に空席があったから帰ってきたのよ」

「それよりも、お前たち学校はどうした?」

タクシーからトランクを引きずり出して、
父の洋介は驚いたように姉弟を見つめた。

「いや、ほら、旅行から帰ってくるお父さんたちは荷物が大変だろうから二人で迎えに行こうか?なんて話していたのよ」

咄嗟に紗希がそのように言い訳したので
弟の大介も口裏を合わせるかのように
「そうそう、早く二人に合いたくてさ」と
嘘に付き合ってあげた。

「そんなこと心配しなくてもいいんだぞ
お前たちは学業が第一なんだから」

そういいながらも満更でもなさそうに父の洋介はニヤニヤした。

「ほら、学校を休んだんなら少しは手伝え、荷物、寝室に運んでくれよ」と言って、大きなトランクを大介に押し付けた。

「ほらほら、そこに突っ立っていると邪魔よ」

母の希美枝は二人を押し退けて家の中に入っていった。
「何よこれ!」キッチンから母のすっとんきょうな声がした。
「あっ!ヤバい!」紗希も慌てて母の後を追うようにキッチンに向かった。

「何よこれ!洗い物がたまっているじゃないの!
まだまだあなたたちを残して留守には出来ないわね」

「ち、違うの!今からやろうとしていたんだから!」

洗い物を始めようとする母を押しのけて急いで洗い物を始めた。
その横をトランクを抱えた大介が通りすぎるので小声で「あんたは洗濯をお願い」と囁いた。

「これでまた貸しが増えたね」

このお返しを忘れないでねと
両親にバレないように腰をクイクイっと振った。
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