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蒼い月光~くの一物語~
第1章 序章
「月称院(げっしょういん)さま…
お世話になりありがとうございました…」
孫の祥姫(さちひめ)が婚姻前の挨拶に
月称院の部屋へ訪れた。
婚姻とは名ばかりで
力のある大名のもとへ血縁を結ばせるための
人質に出すようなものだった。
『いつまで女子(おなご)が
犠牲になる世が続くのか・・・』
三つ指をついて頭(こうべ)を垂れる孫が
不憫(ふびん)でならなかった。
「どうか元気で暮らすのですよ…」
明るく送り出さねばならぬのに、
語尾が涙声で震えた
「いやでございますわ。
まるで今生のお別れのような…
祥姫(さちひめ)は
三十万石もの大名様の正室として嫁ぐのですよ
武士の娘として、
これ以上の出世の本懐はございませんわ」
まだ齢(よわい)13歳の孫娘は
屈託のない笑顔を見せた。
『この子はまだわかっておらぬのじゃ…
世継ぎを産めなかったときの正室の惨めさを』
月称院はこれまで世継ぎを産めぬばかりに
冷たく待遇されてきた他国の正室を
幾人も見てきた。
『どうか、この子が世継ぎを産んで
正室として敬われますように』
そんな願いをこめて
餞別として小さな手裏剣を授けた。
「これは曾(ひい)ばあさまの…?」
幼き頃に
子守唄がわりに聞かせてあげた物語を
覚えてくれていたようだ 。
その手裏剣にまつわる我が母君、
お千代の数奇な物語を…