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蒼い月光~くの一物語~
第9章 千代の初枕(初夜)
「ああん‥‥いや‥‥だめ‥‥」
千代の身体に潜む官能に火がついたのだろう、
喘ぎ声にさまざまなバリエーションが加わってゆく。
まっさらな敷布が激しい身悶えで、
たちまち皺だらけになっていた。
『不様な悶え方だこと‥‥
女子(おなご)としての羞恥心がないのかしら…』
古風な八重にとって
悶え方一つとっても千代が気にくわなかった。
女は、ひたすら官能に耐え、
唇を強く噛み、 声を漏らすのは
殿方が射精したときのみ‥‥
それが女が抱かれるときの美徳だと考えていた。
「た、たまらん…千代、そなたはなんという美しい声で鳴くのだ…」
な、なんてことだ。
剣山が千代の声に感じている!
男は女の喘ぎ声を好むと言うのか!
八重は愕然とした。
足軽の亡夫に抱かれているときも
声を漏らしてはならぬと必死に耐えていたのに…
声を出す方が殿方は喜ぶのであれば、
もっと、もっと、声を出して喘げばよかった。
後悔の念が
いつしか妄想と現実の狭間をぼやかさせ、
うっかりと夫に抱かれていた時を思いださせ
「あああ…だ、旦那さま…気持ちようございます」と 声を発してしまった。
「八重!儂(わし)らの初枕を汚すつもりか!!」
八重が漏らした声を剣山は聞き逃さなかった。
「先ほどからの盗み見、
この剣山が気づかぬと思うたか!」
はっ!と我に返った八重は
畳に額を押し付けながら非を詫びた。
「申し訳ございません!
ひらに、ひらにお許しを‥‥」
八重は捨てられた子猫のように
体をブルブルと震わせていた。
殿の逆鱗に触れたのだ、
打ち首は必定であった。