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第3章 島の町の暮らし孤独、馴染めない、苦しみ。

(あやこは空気を切って義足と自分の足で走り出した。前だ。前だけを向け。頭の中で聞こえてくる声に必死になったあやこは飛んだ。また飛んだ。先頭を走るパラリンピックで走った。

歓声が沸いた。

あやこはトラックの中で両手をついて前を向いて泣いていた。

前だ。前だけ向け!!

答えようとしても答えられない体。無情にも義足が折れてしまった。

彼の声に答えないと・・・前に前に進まないと。

あやこの体が不用意に浮いた。体を持ち上げてゴールに連れていこうとする声の主は「前だけ向きすぎたな。すまん。」そう言ってあやこの義足の変わりに体を支えて歩くと歓声が聞こえてきた。

「おめでとう」

あやこは彼に別れの言葉を伝えた。わがままを押し付けない。彼は彼の選んだ道がある。私は必要じゃない。あやこはそう思って彼の手を手離した。

前だけを向け。その声だけがあやこの心に残った。

二年後、あやこは車イスに乗っていた。後ろを押す人はあやこに「いつもそんなに急がなくてもいいだろ。急ぐのは走るときだけにしてよ。」そう言ってトラックで義足をはめてくれる。あやこはもう一人じゃなかった。「さぁ今日も前だけを向いて走ろう」そう言った彼の声に答えて走り出した。

ゆっくりね。そう言って見守って応援する人と前だ、前だけ向け。そう言って指導して応援してくれる人。あやこは好かれた人と好きになった人、二人の間で空気の音を聞いていた。完結。)




一人にならないでよ。卓郎。



泣き声に染まってた声だった。最後に空港で笑っていた声、卓郎の邪気を飛ばして背中を両手で叩く。

「はいｯ、先生ｯ」

白いシャツの袖に涙の染みを付けて卓郎は正座をして聞いていた。



卓郎は先生にもらったラケットを持ってコートに立っていた。

「卓郎、ありがとう」

殴る先輩も職員室に呼び出す顧問もいなくなった。卓郎の目の色が変わったから・・死んだ魚の目・・・そんな目をしてる人を放っておくような人はこの町にはいなかった。