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黒い瞳
第7章 淳子~19歳~
「あんなに楽しみにしてたのに・・・
バカよ、あんたは・・・」

そう言って遺体にそっとキスをした。

以前のように甘い吐息はなく、
かすかにホルマリン臭がした。

「ほら、由紀子・・あなたのパパよ」

父の死を知ったかのように由紀子が火がついたように泣き出した。

「あなた・・・由紀子が泣いているわ・・・
あやしてあげてちょうだい・・・
あなた・・あなた・・・」


警察葬はしめやかに執り行われた。
署長の弔辞は、やたら長く、
どうでもいい内容に思えた。

白い菊の花に飾られた祭壇の中心に、
若林警部の遺影が誇らしげに微笑んでいた。


健太の妻として気丈に振舞わなければ・・・
そう思ってみても、さきほど遺体と対面し、
ようやく若林の死を受け入れたばかりの淳子には、あまりにも過酷だった。

涙が止まらなかった。

白いハンカチが、あっという間にグッショリと湿った。

控え室で看護婦さんに抱かれている由紀子の鳴き声が会場に聞こえると、
婦警さんたちが一斉にむせび泣きはじめた。

焼香を済ませた順に警官たちは
見送りの整列のために会場を出て行った。

出棺の準備の前に、最後のお別れにと棺に花を手向けた瞬間に、

それまで気丈に振舞っていた義父母の目から
大粒の涙が溢れ出した。

淳子は健太との出会いから今までのことが 走馬灯のように淳子の脳裏を過ぎ去り、
人目をはばからず遺体にすがりついて泣いた。



パア~~ン

霊柩車が出棺の合図であるクラクションを鳴らす。

「若林警部に敬礼!!」

署長の掛け声と共に、整列した警官たちが
一斉に敬礼する。

その敬礼の列は、長くどこまでも続いているかのようだった。


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