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Kiss Again and Again
第11章  兄 妹


 「あゆちゃん 泣かないで」

 泣いているの? ・・・わたし・・・

 樹さんは 動きの不自由なシート越しに わたしを抱き寄せた。 抗おうと 窮屈なシートの中で腕を突っぱねたけど 大きな身体をしている樹さんの力に 腕が疲れてしまい 力が抜けてゆく。

 「それでいい」
 「こんなのは いや・・・」
 「そうでもないと思うよ。 僕は あゆちゃんを傷つけたりしない。 だから僕を利用すればいい。 流れに身を任せればいいだけだよ」
 以前にも 同じことを言った。
 「いや・・・ こんなのは いや・・・」

 樹さんの身体には バターやチョコレートやミルクの甘い匂いが染みついている。 それは 幸せそうな 女の子が喜びそうな匂い。



 この余裕のある抱擁は 樹さんの張り巡らした蜘蛛の糸。 見かけによらない粘着力で 動きを奪い 抗う気力を吸い取る。 魔力を帯びた長い手足が 近づく。 ゆっくり 近づく。 どんな風に料理しようかと 舌舐めずりしながら 長い手足を伸ばす。

 「もう 帰りたい」

 その言葉に 樹さんは 潔く腕を離した。
 「帰りは ちゃんと起きていて レインボーブリッジをみてね。 人類が 頑張った証しだから」
 「はい。 絶対 寝ません」

 降り注ぐオレンジ色のライトを浴びながら 車が走る。
 「こんなにきれいなのに 寝ちゃってもったいなぁい。 今度はちゃんと見ますね」
 「僕は あゆちゃんの寝顔の方が よかったよ」

 そんなことを言う樹さんの横顔も オレンジ色になったり 翳ったりして とてもきれい。 



 長い夜が 終わる。



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