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Kiss Again and Again
第14章 新しい扉

 目が醒めたら そこに樹さんの胸毛を見るつもりだったのに ベッドの中は一人だった。 わたし一人では 広すぎる。

 部屋は アンティークのステンドガラスのランプの灯りがひとつ。 
 改めて 部屋の様子を見る。
 音楽は フランス語の歌になっていた。 男の人が 喘ぐような声でシャンソンを歌っている。 多分 悲しい歌。 見ていたら レコード針が上がり また最初にもどり 歌い始めた。
 濃いブラウンの本棚には 革で装丁された本が並んでいる。 ディケンズまである。 まさか初版本? じゃあ 蓄音機も高価なものなのだろうな。 本棚とおそろいの色の机。 引かれているカーテンも 緞帳のように厚地だ。 そして すわり心地の良さそうな一人用の革張りのソファ。

 こんな部屋で成長した男の子は どんな大人になるの?

 樹さんが また色づいた。 もう透明ではなく 立体感のある人間になった。

 そして わたしが纏っていたバスローブがない。 服も見当たらない。

 こんな時 映画なんかでは シーツをはがして身体に巻きつけたりするけど。 シーツ? 敷いてあるのはベッドスプレッドだし 掛け布団用は すっぽりと包むタイプだ。 仕方がないので ゴールドとブラウンの間のような色のキルトのベッドカバーを巻きつけた。 お布団を被っているようだ。

 ずるずるとベッドカバーを引きずりながら その姿で キッチンまで行った。

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