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Kiss Again and Again
第16章 最後の扉

 「部屋をとっておいたから」
 デザートには手をつけず コーヒーを飲みながら 樹さんが言う。
 「え・・・泊まるの? ここに? このホテルに?」
 「泊まる」
 きっぱり。
 「一緒に」

 いつもだったら 「僕は 明日は休み」とか 「あゆちゃん 明日は休み?」とか言ってくれるのに 今日は そう言わない。

 「大丈夫。 お泊りセットは 用意しておいたから」
 「明日はお休みなんですか?」
 「うん。 休みにした」

 樹さんに手を引かれて入った部屋は 広くて豪華だった。 ベッドは大きく 簡易ではないスリッパが 脇にそろえておいてある。
 カーテンの引かれていない一面の窓からは 遠くレインボーブリッジが見える。
 テーブルの上には 赤いバラとフルーツの盛り合わせ。 クーラーには 白ワインが冷えている。

 ここは スウィートルームなのかしら?

 ベッドに並べておいてあるお泊りセットは 赤いレースの下着上下だった。

 「これ? これを 着るの?」
 「うん。 わくわく。 僕が着せてあげようか?」
 「これ・・・ 樹さんの 趣味?」
 「うん。 似合うと思うよ。 わくわく」

 なんだか 赤色尽くしで くらくらするような。

 「ほんとは 同じレースのガーターベルトとストッキングもあったんだけど あゆちゃん 着てくれないと思って それはあきらめた」
 「これ・・・ どんな顔をして・・・買ったの?」
 「こんな顔」
 華やかに笑う。

 食事の時の 凛々しいスーツ姿や パーフェクトマナーをお披露目してくれたのと同一人物とは思えない。
 呆れながらも 樹さんを可愛いと思ってしまう。

 この下着を選ぶ時間。 ドレスを探しまわり サイズ直しの相談をする時間。 化粧品売り場で 口紅を決める時間。
 どれだけの労力と時間を わたしのために費やしてくれたの?

 可愛いどころではない。

 「そして 一緒にお風呂にはいる、ねっ」

 樹さんの接続詞は 時々 ちょっと間違っている。

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