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Kiss Again and Again
第17章 別れのとき

 わずかな荷物を持ち 家を出てゆく樹さんに 玄関で
 「忘れ物はないですか?」
 「・・・ このこ」

 溢れんばかりの愛情をこめて 抱きしめてくれる。 
 そのまま あなたの中に溶け込んで 一緒に行けたら・・・

 
 失うものの大きさが のしかかる。


 空港まで 樹さんの車で 樹さんの運転で行った。 空港で乗り捨てると 自宅まで届けてもらう手配済みだという。 そんなところも 大人だと思う。
 車の中で 初めて フランスでのこれからの生活を聞かされた。 パリには フランス人の友人が何人かいるという。 そのうちの一人が 住居などは手配してくれたらしい。

 結局 わたしはこの人のこと 何にも知らないままだったのだ。 あんなに愛されたのに。

 預ける荷物のない身軽な男が 登場手続きする背中を見つめた。 何度も見ているはずなのに 初めてみるような広い背中だった。 異国の街で ひとりで生きてゆく男の背中。


 「もう あとは飛行機に乗るだけ。12時間後にはフランスだ。 その頃 あゆちゃんは何しているのかなぁ」
 きっと 何もせず 泣いてる。
 「時間まで お茶でも 飲む? どこもまずいけど」

 あなたが淹れてくれる美味しいココアもミルクティも 沢山のケーキも とろけるようなキスも めくるめくような愛撫も 飛行機が持ち去ってしまう。

 何か言えば 泣き出してしまう。
 空港では 泣かないと 昨日の夜 約束したから。
 うつむき 首をふる。


 「じゃあ いくね」
 小さなボストンバッグと 後姿。

 泣かない。 樹さんが振り向いたら 手を振る・・・から 泣かない・・・

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