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夜の蝶の物語
第4章 いたぶられる咲桜(さくら)

咲桜(さくら)は最初のひと突きで
登り詰めました。

こんな経験は初めてでした。

今までのお客さんに、
どんなに甘い言葉を囁かれても

どんなに上手な愛撫を施されても

心の底から気持ちいいとは
思ったことはなかったのに
ひどい仕打ちをされながらも

咲桜の心の奥底に眠っていたMの本性がめざめ、
性のステップを一気に駆け登った事で
悦びにうち震えたのです。




次の夜、咲桜から事務所に連絡がありました。

この仕事を辞めたいと言うのです。


「ちょ、ちょっと待ってよ咲桜ちゃん!」

所長がまじで困った声で
受話器に向かって叫びました。

それもそのはず、
咲桜はお店一番の売れっ子なのですから。


「ねっ、どこかの事務所に引き抜かれたの?
それなら考え直してよ、
あなたの取り分を
増やしてあげてもいいからさあ」

そんなやり取りを聞いて、
事務所で待機していたスミレやリリーさんや、
他の女の子かムッとした顔をしました。

言葉にしませんでしたが、
そんな依怙贔屓(えこひいき)をされるのなら
自分達もこの事務所から
バイバイしようと思ったのです。


「えっ、なに?…目覚めた?
ちょっとなに言ってるかわかんないんだけどさ」

所長は頭がパニックになっているのか
事務所内をウロウロと行ったり来たりしながら
脂汗をいっぱいかいていました。

やがて一方的に通話が切られたようで
所長はスマホ画面を見つめて呆然としています。


「あの子、辞めちゃうんですか?」

スミレが伺うと、

「デリヘル辞めるんだって…
SMクラブに所属するんだって…」

泣き出しそうな声でそう言うと
ソファに、座り込んで
「困った、困った」と連呼していました。



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