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シャイニーストッキング
第18章 もつれるストッキング2      佐々木ゆかり
 43 伊藤敦子(9)

「あぁ、楽しかったわぁ…」

「はい、そうですね、楽しかったです」
 わたしと伊藤敦子さんはタクシーに乗り、自宅マンションを目指していた。

 たまたま帰りに寄った会社ビル向かいのビストロに、偶然、本当に偶然に、蒼井美冴さんと武石健太の二人が居て、一緒に会話とお酒と食事を…
 午後9時半過ぎまで楽しんだのだ。

 そして解散をし、ルームシェアをする伊藤さんと帰途のタクシーに乗っていた…

「本当に羽田エリアなんですね」
 伊藤さんは時折頭上を飛んでいる、羽田空港発着の飛行機の存在に目を向けながらそう言ってきた。

「うん、そうなの…
 ま、離婚の慰謝料代わりに貰ったマンションなんだけどね…」

「えっ、離婚の慰謝料代わりって?」
 伊藤さんは驚きの声を上げる。

「あら、言ってなかったっけ?
 うん、そうわたしバツイチなのよ…
 最も結婚生活は半年無いくらいなんだけどね…
 あのね……」

 わたしはお酒の酔いのせいもあり…

 勢いからの結婚と、その後すぐに営業の仕事の成績の差のズレによる元夫のヒガミからの浮気による離婚に至る経緯と…
 その元夫の父親が都議会議員の実力者で、そのファザコンの力による高級マンションの慰謝料代わりの譲渡の流れまでを簡単に話してしまった。

「そ、それは…酷いですね…」

「うん、ま、今となっては過去の事だからさぁ…
 だからマンションには何の思い入れも無いのよ…
 それに一人の3LDK住みは広すぎてさぁ…
 だから伊藤さんは全然遠慮は要らないのよぉ…」

「あ、はい…そうですか…」
 そんな会話を交わしている間にマンションに到着した。

 タクシーを下りると…
「うわぁ、なんてステキなマンション…」
 伊藤さんはこの高層マンションを見上げながら感嘆の声を漏らす。

「うん、ま、でも、そんな経緯があったから、わたしにはなんてことの無い、そう『砂上の楼閣』みたいなモノよ…」

 そう、今となってはいつ手放しても、崩れたとしても、何の感慨も無い存在に近いのだ…

「さ、どうぞ…」

 そしてまずはエントランスで暗証番号を入力してロックを解錠し…

「暗証番号は………ね」

「あ、はい…」

 エレベーターに乗り…

「ここね…」
 そして更にドアのロックの解錠の暗証番号を伝え…

「さぁ、どうぞぉ、入ってぇ」


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