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第20章 もつれるストッキング4　　　　　律子とゆかり

　15　少しだけの美冴さんの過去

「……室長ぉ、ゆかり室長ぉ…」

「は、え？」
　わしはそんな越前屋さんの声でハッと我に返った。

「…え、あ、ご、ごめん」

「だからぁ、あと、山梨の甲府支社と栃木の宇都宮支社、宮城の仙台支社にいる人をわたしがリストアップしたんですよぉ…」
　どうやら越前屋さんは、わたしがそんな嫉妬心からの動揺から自分の世界に籠もり、揺らぎ、逡巡し、迷走してしまっている間に、今回の彼、大原常務の出張の経緯とおそらくはこの先も確実に動くであろうリストアップ支社の説明をしていてくれていたようであるのだ。

「うん、そ、そうなんだぁ…
　あ、そう栃木もなの？」
　そうわたしが咄嗟に聞き返すと…

「はい、宇都宮支社です、どうやら大原常務は栃木県出身ってぇ云ってましたぁ」
　そうにこやかに言ってくる。

　すると…
「あのぉ、実は、わたし、結婚生活が宇都宮だったの…
　元旦那の異動先と、そしてたまたま旦那の実家が宇都宮市で…」
　と、美冴さんがやや恥ずかしそうに言ってきたのだ。

「ええっ、そうなの？」
「えっ、そうなんですかぁ？」
　そんな美冴さんの言葉に、わたしと越前屋さんが同時に反応する。

「はい、宇都宮市に約5年住んでました…」
　わたしはその話しは初耳で…
　というより、美冴さんとこうして仲良く、親しくなったのもまだ僅か一ヶ月に満たない訳だから、知らなくて当然であったのだ。

「へぇ、そうなんだぁ、なんかぁ、美冴さんの人妻姿が想像できないわぁ」
　と、わたしが思わずそう呟くと…
「あぁもぉ、ゆかり室長、人妻なんてぇ、なんかいやらしい言い方しないでくださいよぉ…」
　美冴さんはそう苦笑いしながら応えてきた。

「本当ですねぇ」
　そしてそんな話しに越前屋さんが追随してきて…
　ちなみに中島さんは、もう既に、パソコン画面を夢中に睨み、いや、再びキーボードを忙しく叩き始めていたのである。