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シャイニーストッキング
第20章 もつれるストッキング4     律子とゆかり
 131 昂ぶりの余韻(1)

「じゃぁ失礼しまぁす…
 明日お待ちしていますねぇ…」
 
 最後に明日の会場の住所を教わり…
 この対峙の場は、そんな越前屋さんの言葉でひとまず終わりを告げた。

 ひとまず…
 そう、今日のところはひとまず終わり。

 そして明日…
 その明日の酒宴の場で、わたしが最後の引導を彼女に、佐々木ゆかり室長に突きつけるのだ。

 だからこそわたしは…
 明日の彼の、大原常務の参加を、そして、誘われるままにわたしも参加をする事にしたのだから。

 明日のその場でわたしは…
 直接彼女と言葉を交わし、会話をし、現実を突きつけて、完全に彼をわたしのオトコとして奪い獲る…
 いや、完全に陥とすのだ。

「失礼します」

 バタン…

 そして去り際に見せた彼女の絶望的で翳りがある不惑な表情に…
 なぜなわたしの心が昂ぶっていた。

 いや、昂ぶりの余韻がウズウズと心を疼かせていた…
 
 昂ぶりの余韻…
 わたしは今までこんな感覚、感情を抱いた事が、いや、記憶がない。

 いや、そもそもが、大好きなオトコを獲る、奪う…
 そういう過去の恋愛経験がなかった。

 あの大好きで愛していたファンド系の社長であった彼にさえ…
 そう、彼が政略結婚をするという現実を突き付けられた時でさえ、奪う、奪い返すという感情、感覚は起こらなかった。

 なのに…
 なぜか、この男…
 この大原浩一というこのオトコに対しては激しく心が昂ぶるのである。

 このオトコを彼女から奪いたい、獲りたい、わたしだけの存在にしたい…
 
 その激しい昂ぶりの感情が…
 さっきまで対峙をし、様々な感情の波に飲まれ、足掻き、藻掻き、揺らぎ、溺れそうになった思い、脳裏で狂おしいほどに逡巡した想いの感情が、まだ余韻として心の中で渦巻いていた。


 カチャ、シュポ…
 
「ふうぅぅ…」

 そして傍らでは彼が、ようやく一段落とばかりに、ZIPPOライターでタバコに火を点け、ため息とも吐息ともつかない息を漏らしながら煙をゆっくりと吐いた。

 このタバコにより、さっきまでこの常務室に漂っていたわたしや彼女達の微かな香りが…
 
 わたしのシャネル…

 佐々木ゆかりの柑橘系のフレグランス…

 蒼井美冴のムスク系の甘い香り…

 それらの様々な思惑と戸惑いと不惑な香りが…

 
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