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シャイニーストッキング
第1章  和哉
 28 夢の続き ③

 休憩室の中は美冴の柑橘系の残り香が漂っていた。
 
 和哉は椅子に座り、美冴の香りが変わったこと、そして穿いていたストッキングの色艶がいつもと違っていたことの意味を考えながら呆然としていた。

 そうなのか、やっぱり無かったことにしようとしてるんだ…
 昨日のあの夢のような時間を思い返していく。

 『美冴さんの香りが大好きなんです…』
 『美冴さんの香りだけは分かるんです…』
 『美冴さんのストッキングの艶やかさが大好きなんです…』
 『美冴さんのストッキングは汚くなんかないです…』
 和哉があの時に言った心からの激白の言葉である。
 
 今日の美冴はまるで二人の間に何事もなかったかのようないつもと変わらぬ落ち着いた様子であり、いつもほのかに漂わせているフレグランスを甘い香りから柑橘系の香りに変え、毎日変わらずブラウン系の色艶のストッキングを好んで穿いているのに、今日に限ってナチュラル系の色艶のストッキングを穿いていた。

 それって昨日の僕の思いの告白を全否定してるって意味じゃないのか…

 美冴さんにとっては昨日のことなんてたまたま気まぐれでああなっただけで、本人にとってはなんてことないことなんだ…

 ひと回りも年下の子供なんて相手にされるはずがないんだ…
 すっかり自虐の思いに陥ってしまっていた。

 やっぱり一人で勝手に舞い上がっていただけだったのか…
 これからのことも想像して夢を膨まらせていただけにショックであった、とても休憩明けに美冴の顔は見れそうもなく、このままバイトを辞めて家に帰りたくなっていた。

 そうだ、もう早退しよう、このままではとても無理だ…
  そう決心して着替えようと自分のバッグを手元に引き寄せる。

 「あれっ?」
 バッグのサイドポケットに紙切れが折り畳んで挟んであり、それを手に取り開いて見る。

 「あっ、あぁ…」

 和哉はその紙切れを見た瞬間に涙が出そうになった。

 『今日も5時に待ってるね…』
  それは美冴からのメモであった。

 今までの心の中での自虐の思いが音を立てて崩れ落ちていくようであった。

 ぼ、僕はなんて…

 疑っていた自分を後悔し、そして美冴に対しての再燃してくる想いに心が震えてきていた。
 
 真夏の夜の夢はこれからまだまだ続き、熱い夜の始まりを告げる…




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