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蝶の標本〜もうひとつのトパーズ〜
第6章 安息の地
フェリーの中で、
僕は麻衣子さんを抱き締めて眠った。
麻衣子さんが長い夢から覚めるまで、
いつまでも待とうと思っていた。
母は…
父に守られながら、
僕の写真を額装に閉じ込めて、
蝶を愛でるように眺めて過ごすんだろう。
そして、そんな母を、
父が大きな箱に閉じ込めておくんだろう。
正気に戻らないように優しくぬるま湯の中に浮かんだまま、
ゆっくりと微睡んでいられるような愛し方をするんだろう。
本当の父親は…
ミケーレは何処でどうしているんだろう?
僕のことも知らないだろうし、
母のことは忘れているんだろうか?
正気に戻らないままで、
父に愛されながら天に召されるのが、
多分、母にとっては一番幸せなことだろう。
僕は…
悪い夢を見たと思って、
母からされたことを忘れれば良いのかな?
忘れられそうにないけど、
全てを抱えたまま、
少しでも麻衣子さんと一緒に過ごせればと思う。
あんなことをした母に対して、
憎しみや怒り、恐れの気持ちはなかった。
ただ、僕のことを愛し過ぎただけだった。
だから…
僕も麻衣子さんのことを愛しても許されるのかな?
黒田先生の代わりになれるとは思えないけど、
自分のやり方で、
寄り添っていくだけでも良いからずっと一緒に居たい。
みんな、一番大切なものを、
蝶の標本にして置いておきたかっただけ。
だから…
母のしたことを赦したい。
赦さないと、
母も僕も父も…
前に進めない。
自分のことも赦したい。
穢れているという気持ちに囚われている自分を、
解放してあげたい。
そうしないと、
麻衣子さんと向き合えない。
いつか…
もう一度、母に息子として会いたい。
本当の父親にも会ってみたい。
そして、麻衣子さんと結婚して、
子供を作って家族になりたい。
波音を聴きながら、
僕は静かに涙を流していた。
その涙は、
悪くない。
麻衣子さんの柔らかくて温かい温もりだけが、
ただひとつの真実だ。
そう思って、
そっと目を閉じて浅い眠りについた。
(完)
僕は麻衣子さんを抱き締めて眠った。
麻衣子さんが長い夢から覚めるまで、
いつまでも待とうと思っていた。
母は…
父に守られながら、
僕の写真を額装に閉じ込めて、
蝶を愛でるように眺めて過ごすんだろう。
そして、そんな母を、
父が大きな箱に閉じ込めておくんだろう。
正気に戻らないように優しくぬるま湯の中に浮かんだまま、
ゆっくりと微睡んでいられるような愛し方をするんだろう。
本当の父親は…
ミケーレは何処でどうしているんだろう?
僕のことも知らないだろうし、
母のことは忘れているんだろうか?
正気に戻らないままで、
父に愛されながら天に召されるのが、
多分、母にとっては一番幸せなことだろう。
僕は…
悪い夢を見たと思って、
母からされたことを忘れれば良いのかな?
忘れられそうにないけど、
全てを抱えたまま、
少しでも麻衣子さんと一緒に過ごせればと思う。
あんなことをした母に対して、
憎しみや怒り、恐れの気持ちはなかった。
ただ、僕のことを愛し過ぎただけだった。
だから…
僕も麻衣子さんのことを愛しても許されるのかな?
黒田先生の代わりになれるとは思えないけど、
自分のやり方で、
寄り添っていくだけでも良いからずっと一緒に居たい。
みんな、一番大切なものを、
蝶の標本にして置いておきたかっただけ。
だから…
母のしたことを赦したい。
赦さないと、
母も僕も父も…
前に進めない。
自分のことも赦したい。
穢れているという気持ちに囚われている自分を、
解放してあげたい。
そうしないと、
麻衣子さんと向き合えない。
いつか…
もう一度、母に息子として会いたい。
本当の父親にも会ってみたい。
そして、麻衣子さんと結婚して、
子供を作って家族になりたい。
波音を聴きながら、
僕は静かに涙を流していた。
その涙は、
悪くない。
麻衣子さんの柔らかくて温かい温もりだけが、
ただひとつの真実だ。
そう思って、
そっと目を閉じて浅い眠りについた。
(完)