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空の記憶~あなたと私と彼、それから~
第8章 第三話【波の音】 予感
亮平がフッと視線を逸らし、背を向ける。
幸が逃げるとは思いもしないのだろうか、数歩離れて先を歩く亮平の背は心もち曲がっていた。ひとめ見たときは気づかなかったけれど、よくよく見れば、ひと回りは痩せたようだ。漁で鍛え抜いた身体も筋肉がそげ落ちて、猫背気味になった背中には深い疲れと寂寥感が滲んでいた。それはこの四年間の亮平の暗く絶望に満ちた生活を彷彿とさせるようで、幸の胸はまた鋭い針で刺したようにきりりと痛む。