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重ねて高く積み上げて
第3章 たゆたう
アメニティのクレンジングオイルで肌を撫でながら叫びだしたい衝動を押さえ込んだ。いつでも準備万端だと思っていたけれど、いざこういうことになると、頭も心臓も体も動かし方がわからなくなる。身体中の血液が沸騰しているのかと思うくらい、全身が熱い。

浴衣を着て、バスルームから出ると、オレンジ色の光が小さく輝いていて、部屋全体がそういう雰囲気になっていた。埋込み型のテレビは電源を落とされていて、真っ暗な画面の中にぼんやりと私の体の輪郭が見える。決して太っているわけではないのに、どうしてこんなにも自信がなくなってしまうのだろう。抜かりはないはずなのに、私の足は、そこから1歩も動かない。

ユウくんはさっきと変わらず同じ位置にいて、バスルームの前から動かない私に手を伸ばし、「髪、拭いてあげようか」と穏やかに笑う。へらへらしているその笑顔も、こんな時だけやたら格好良く見えてしまって、何が何だかわからなくなって導かれるまま、ベッドに近づきタオルを差し出す。

いつもは首の詰まったコック服を着ていて見えていなかった鎖骨が、少しはだけた浴衣から出ている。見てはいけないものを見てしまった気がして、さっと目を逸らした。

白いはずのタオルが、オレンジ色のライトでほんのり色づいている。ユウくんに背を向けるようにして、ベッドの縁に背筋を伸ばして座る。ふかふかのタオルの上から大きな手の圧を感じる。立てられた指先が頭皮を撫でる。

「髪伸びたねー。ずっと黒いけど、染めたりしないの?」

のんびりとした穏やかな声が心地良い。

「うん……黒髪が好きなの」

昔、ユウくんが褒めてくれたから。私の髪が綺麗だって。

タオルで髪の毛を挟んで上から下にスライドさせる。時々、ぱんぱんと叩いて、美容院でのやり方と少し似ていてクスッときた。大切にされている。そう思うと、自然と顔がにやけてしまう。

「はい。ドライヤーで乾かしておいで」

化粧台の上にあるドライヤーで髪を乾かしながら、ユウくんが思ったより普通だったことに、気分が落ちる。嫌われていないことはわかるけれど、恋愛対象としては見えていないからこそ、あんなにもいつも通りなのだろう。

兄妹のような関係のまま育ってきたけれど、赤の他人で血の繋がりは一切ない男女。こんなにも色っぽい条件が揃っているというのに、ここまで意識されないことが、どこまでも悲しい。
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