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重ねて高く積み上げて
第3章 たゆたう
少し、怒っている。ユウくんの小指から感情が伝わってくるみたいだった。

「気を許している相手なのはわかるけど、気をつけなきゃダメだよ。あんなに酔うのはもうダメ」

言葉が出ない。

触れるだけになっていた小指が離れ、上から手を握られる。私の手をすっぽり包んでしまう大きな手。怒られているのはわかっているのに、どうしようもなく嬉しくて気恥ずかしくて、顔に熱が集まる。心臓が耳のすぐ側にあるような錯覚をする。

「わ、私、そんなに酔ってたの?」

「うん」

「どんな風に酔ってた? 何か失礼なこと言ってた……?」

躊躇うような間が空いて、ユウくんが口を開く。

「……失礼なことは言ってなかった、と思う。ただ、スキンシップが多くて……」

「ひえぇ」

情けない声が自然と出てしまった。高橋さんへのスキンシップが多くなってたなんて、最悪じゃないか。これじゃあ、高橋さんの言う通り「諦めきれない」状況へとますます拍車がかかってしまう。

嫌だ嫌だ、それだけは嫌だ。悪い人ではないことはわかったけれど、恋愛対象になることはないのだから、サクッと諦めてもらわなければならないのに!

「うぅ……月曜日が憂鬱だよ」

「わかった? もうあんなに飲むのはダメだよ」

「はーい」

いつもの流れだったら、重ねられている手はこのタイミングで離れていたと思う。けれど、今日はそのまま手を握られていて、私より少し低い体温を手の甲から感じる。さっき手から感じた嫌な感覚はもうなくて、触れている場所が、やたら暖かくて心地良い。

それはユウくんも同じなのか、洋画が終わってエンドロールが始まっているのに、その場から少しも動こうとしない。手を離そうとする素振りも、ない。

しばらくそうしていると、「お風呂、入ってきたら?」とユウくんが少し照れたように言う。

ここはラブホテル。その言葉がどういう意味を持っているのか、さすがの私も知っている。眠気もどこへやら、私は勢い良く起き上がって、バスルームへと急いだ。

シャワーを浴びながら、テンパった頭で「スるのかな……」と1人で考える。体型や脱毛、下着に至るまで抜かりはないけれど、あのユウくんのことだ。シャワーから出たら寝ていた、なんてことも有り得るだろう。

シャンプーは柚のいい匂いがして、ボディソープは無香料だった。頭がゆっくり冷静さを取り戻していく。
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