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重ねて高く積み上げて
第1章 プロローグ
ちーん、とレジのドロアが開く音がして、頬張っていたコロッケを飲み込む。

「ユウくん先払っとく! お金合わないでしょ?」

コック帽を脱いだユウくんの、色の抜けきった金髪が、もさっと広がる。髪の毛は、後退することもなく、ふさふさしているなぁ。

「ハナちゃんのは元々売上に入れてないから大丈夫」

何も大丈夫じゃない。こんなに美味しい1食を作ってもらって、お礼が出来ないなんて申し訳ない。毎回のことだけれど、こればっかりは慣れない。労力に見合った対価を貰うべきだし、美味しい料理を食べさせてもらったお礼がしたい。

「納得できてない顔だね」

「そりゃあ、私も社会人だし……。お給料だってちゃんと貰ってるんだから、少しは売上に貢献したいよ」

「いつもお酒持ってきてくれるし、充分ありがたいんだけどな」

毎回この調子で申し訳ないから、せめて自分が飲むお酒くらいは、と持ってきているけれど、自分が飲むから、という理由だ。ユウくんはたまにそれを飲むくらいで、ほとんどは私が飲み干してしまう。お店に並べるでもなく、同じ量を飲むのでもない。実質、タダ飯食らいに変わりがない。

「変わらずホットケーキを食べるハナちゃんが、社会人かぁ……」

しみじみと言いながら、へらへら笑っている。洗い物を始めるから、私の咀嚼スピードが自然と早くなる。鼻が大きいから横顔が綺麗だ。二重アゴだけれど。

ホットケーキとカニクリームコロッケは良く合った。はちみつとクリームと油のトリプルパンチで、胃がもたれそうなほどにこってりしているけれど、ワインの渋みがちょうどいい塩梅でスッキリしてくれる。飽きた時はドレッシングのかかったキャベツを頬張ると、口の中がリセットされる。甘いものとしょっぱいものの組み合わせは、私が何歳になろうとも正義な気がする。

洗い物をする横顔はずっとへらへらしていて、締まりがない。クマみたいになってしまったけれど、今も変わらずへらへらしているだなんて、なんだか可愛らしい。

お腹も満たされて、ほどよく酔った私は席を立ち、お皿を持った。調理場で明日の仕込みをしていたユウくんが「置いといていいよー」と和やかに言うけれど、お金を受け取ってもらえないならば、洗い物くらいはさせてほしい。

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