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重ねて高く積み上げて
第1章 プロローグ
洗い場のスポンジを持って、よく泡立たせる。香りはないけれど、業務用の洗剤だからかよく泡立つ。

……そういえば、ユウくんは結婚しないのだろうか。35歳ならいい歳しているし、結婚を考えている恋人がいたっておかしくない。未婚なら性別関係なく、周りから結婚を急かされるくらいの年齢のはず。

私に内緒にしているだけで、そういう相手が既にいたり……?

ガシャン。

ハッと我に返る。

「大丈夫? 怪我はない?」

隣に立ったユウくんが、私の手元を覗き込む。

「……ごめん」

低い位置から落としたお皿は、割れることはなかったものの、端が少し欠けてしまった。
泡だらけのシンクの中では破片も見つからない。

「俺やるよ。ハナちゃんやっぱ酔ってるみたいだし」

力の入らない私の手から、泡だらけのスポンジが取られていく。かすかに触れた指先が温かい。触れた部分だけが、じくじくと熱を持って私の心臓へと届く。

忘れていた。

私と彼の生きてきた時間、これから生きていく時間は違う。私は23歳だけれど彼はもう35歳なのだ。

12年間の差がずっしりと、確かな重みを持って胸に落ちてくる。

「ユウくん、私、好きな人がいるの」

へらへらした笑顔が消えた。

真面目な顔を初めて見たような気がする。

私は夢見心地に、彼の名前を呼んだ。



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