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揺れる心
第8章 突然のさよなら
本当に深い眠りにつけたのは久し振りのことだった。

目が覚めると陸也さんが腕枕をして眠っている。

やっぱり海斗さんと似ていて、
お父様とも似ている顔立ちだなと思っていると、
陸也さんの目が開いた。


「真理子さんに見られてると思うと、
恥ずかしくて寝てられないな?」と笑って、
「おはよう」と言う。

私もなんだか恥ずかしくなってしまって、
胸に顔を埋めるようにして、
小さい声で「おはようございます。
あの…久し振りにちゃんと眠れました。
陸也さん、ありがとうござ…」
と言おうとした唇をそっと塞がれてしまう。


「目を閉じてて?
海斗と思ってくれてて良いよ?
真理子さんが落ち着いて少しでも穏やかな気持ちになれるなら…」

唇がそっと触れるだけの優しいキス。
息が苦しくなりそうになって開いた唇に、そっと舌が入ってきて、
私の舌を探すようにすると優しく絡まる。

髪を撫でてくれる大きな手も、
キスの感触も、
少し似ているところもあるけど、
やっぱり違う。


目を開けて、陸也さんの顔を見ると、
陸也さんも目を開けて暫くそのままキスをしてから、
そっと離れて言った。


「ごめんなさい。
陸也さんは陸也さんだわ?
海斗さんの代わりじゃない…」

「そうだよね?
ごめん」

「違うの。
言葉で伝えるの、難しいな。
陸也さんのことを海斗さんの代わりにするなんて、
そんな失礼なって、
自分に腹が立っちゃうっていうか…」

「えっ?」

「私、まだ、
海斗さんの死を受け入れられなくて、
ずっとそこに留まっていたの。
そんな状態で、陸也さんに甘えてしまっていて…」

「良いよ。
甘えて?
言ったよね?
出来ることがあるなら、
なんでもしたいから」

「私…
ちゃんと海斗さんの死を受け入れてから、
陸也さんのこと、
考えたい。
海斗さんの代わりだなんて、
失礼過ぎるもの」

「代わりでもなんでも、
僕は嬉しいよ?
こうやって真理子さんを抱き締めてられるんだから」と優しく笑う。



「私…久し振りにお腹が空いてきました」

「じゃあ、カレー作ってあげる。
その前に買い物だな?
近くにスーパーある?」

「坂の途中に」

「一緒に行こうか?」

「私…怖くて外に出れなくて…」

「手を繋いで行けば大丈夫だよ」と言って優しく笑った。
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