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妄獣
第1章

「ご苦労様です」


・・・え?


現れたのは彼女!…じゃなく、男だった。

デカくて目付きの悪い男。…え?は?なに??何だよ誰だよこいつ。アレ?俺まさか、部屋間違えた?

「?なにか」

俺より15cmは高い位置にある顔を見上げたまま硬直してたら、男は思っくそ眉を顰めた。やべぇやべぇ…落ち着け、俺。

「あ…ぇ、え…と、お、お届けはこちらのお部屋で…」
「間違いないですよ。サインでいいですか?」


俺がおずおずと差し出したペンを受け取り、さっさと記名していく男。ふと見ると、男の背後に続く長い廊下の突き当たりにあるドアから……彼女が姿を現した。

「ご苦労さまで… あれっ?おかえりなさいっ」

こちらに駆け寄った彼女は、笑顔を向けた。俺にじゃなくて、男に。その顔は俺に向けるものより何倍も可愛かった。


「ただいま」

今帰ったんだけど、丁度鉢合わせた。と彼女に話しながら。男も俺には目もくれず、ペンと伝票を返してきた。

「荷物(これ)、どうする?台所持ってこうか?」
「あ…後で解くのでそこに置いておいてください」
「わかった」


・・・なんだよ、オトコ居たのかよ。

あんなに滾っていた熱が、一気に冷めてくのがわかった。

彼氏か旦那かは知らねーけど、彼女はこの男のものだ。
彼女の笑顔だけでそれがハッキリわかったし、俺とこいつの体格差では…正直、勝てる気がしない。
俺の中の獣は、あっさり成りを潜め…てか、しっぽ巻いて逃げた。



「毎度どうもー…」


いつも通り…いや、いつも以上にそそくさと退散。


やっぱり俺、この仕事辞めよ…。


───────────────


「配達員さん、変わっちゃったんです…せっかく仲良くなれたのに」
「この間の人?なんか俺見てえらいビビってたけど」
「…。もしかしたらそれが原因かも…」
「いや俺何もしてないよ?未結」



【おしまい】
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