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第3章 釘を刺される

「それから101号室の旦那さんにも、きちんとご挨拶を済ませたの。日中にばったり、アパートの前で会ったから。でもね…」

私が何故、朝から喫茶店にモーニングをしようと誘ったかと言うと…。

「私たちが引っ越して来た時の初日、会話してた内容って覚えてる？」

「そんなのいちいち、覚えてねぇよ」

そりゃあ、まぁそうだけど。

「とにかく、その時に話ていた私たちの会話を全部聞かれていて、傷付けちゃったみたいで、ご挨拶の時にイヤミを言われちゃった…」

要するに和男に言いたい事は、自分の適当に思い付いた言葉を、時と場所と場合に応じて、加減して喋れよって事。

「ふぅ～ん。人の家の中での会話なんだから、他人には関係ないはずなんだがな」

「そうなんだけど、やっぱり何処で誰が聞いてるか分からないでしょ。地元の人だって話てたから。しけただとか言ったら失礼よ。これからは気を付けなきゃね」

また、聞かれてるといけないから。

朝からモーニングに誘い出したって訳よ。

「101号室の永津さんだっけ？」

和男がコーヒーを、すすりながら言う。

「えっ、何で名前知ってるの？」

私は驚いてしまった。

「翼と同じで、近所と仲良く出来ない人間だそうだよ？無愛想な癖に何か有ると、釘を刺しに来る人なんだと聞いた。だから102号室のご夫婦は静かに生活をしているそうだ」

えっ…。

「おまえも釘を刺されたんだよ」

「えっ…」

「誰に対しても、そういう態度をするらしいから気にする必要はない。挨拶をしても露骨に無視したりするらしい。誰とも仲良くする気もないようだから、そんな男のイヤミに、こっちもいちいち真に受けなくていいんだよ」

和男は、どうでもいい…みたいに鼻で笑って言った。