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あなたが消えない
第5章 沈んでいく
あの時のキスとあの強い視線を思い出すと、身体が妙に火照って、胸がギュッと握りつぶされるような痛みが走る。

和男は、早く帰って来ても私とは話そうとしない。

むしろ、私が話そうとしないのかも。

うかつに、永津さんとの事を口にしてしまいそうで。

「私もそろそろバイトでもしようかな…」

家に居ると色々考えて、考えるだけなのに、余計な事まで考え過ぎて疲れる。

気持ちを切り替えたい。

そう呟いた私に、

「翼の好きにしていいよ」

和男は感心なさそうに答えた。

「うん…」

たったそれだけの言葉で終わり。

どうして? 何で?

なんて、聞いてくれてもいいのに。

「和男…」

私は、和男の背中にしがみついた。

「ごめんね。私のせいだよね。和男がそっけないの。私たち、このアパートに引っ越してから、すれ違いの生活をしてるよね?」

「何を言うんだ。すれ違いって大袈裟だな。土日の休みはこうして、一緒に居るだろ?そうだ、12月に入ったら土曜日も仕事だから覚えておいてくれ」

寂しい訳じゃないよ。

だけど、涙が出ちゃう。

和男のたまに言う、優しい言葉に。

「泣くなよ、変な奴」

その夜は、久しぶりに和男の布団に入り込んで、和男の胸に抱かれた。
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