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近くて遠い
第1章 雨に打たれて
「いいから取っておくといい。
それと、その傘は君にあげるから、ちゃんと家までそれをさすんだ」



「そんな…だめです…っ、何の縁もない方にこんなによくしてもらって…」


困惑しながら私がそういうと、彼は優しく微笑んだ。


「そんなに気になるなら、借金てことにしようか…」



「え…」


「そんな驚くな…。利子も期限もなしにするから安心するといい。返済は余裕が出来たらでいいから。」



私はそういう彼を見つめて、ギュッとお金を握りしめた。


そんないい条件で貸してくれるなんて、騙されているんじゃないかなんと疑うこともなかった。

いや…

とりあえず今お金が手に入れば騙されててもいいというのが、崖っぷちの私の本当の気持ちだったのかもしれない。



「ありがとうございますっ…」


私は彼に深々と頭を下げた。


「いいって。そんな頭下げるな。俺も…その方がいいからさ。」


え?




言っている意味が分からず顔をあげて彼をみた。



「あー…。えっと…ほら、また君に会えるってことだろ…?」


少し照れたように頭をかく彼をみて、ドキッと自分の胸が高鳴るのを感じた。




「あ、あのさ…」


急に真顔になった彼は静かに私に近付いて傘の中に入ってきた。



ドキドキドキドキ…



速まる心拍数。


だけどどこか落ち着いていて、何故だか彼に引き込まれそうになった。
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