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近くて遠い
第1章 雨に打たれて
どんどんと顔が近付いてきて



彼の視線が私の唇に注がれているのを感じた。



「君の…」




君の──…





「カナメ様!!!!!
呼んで来ましたよ!ほらもう大分時間をロスしてしまった…」




今にもキスしそうな距離で彼が何かを言いかけたそのとき、斎藤さんの声が響いた。


「……あぁ…分かってる、行くよ」


ふぅっと息を吐いて離れてしまう彼。



「何怒ってるんですか…ってびしょびしょじゃないですか!!もぉ…どうするんですか!その姿で有川様にお会いになられるんですか?!」


「…仕方ないだろ。」



そう斎藤さんに言うと、再び私をジッと見つめた。



「また会おう。ちゃんと傘さして帰るんだぞ。」


優しい微笑みと共に頭を撫でられて、私のドキドキはマックスになっていた。


「あ、あの…」



彼は私の声に気付かず、早くしろとうるさい斎藤さんに文句を言いながら、消えていった。



ザー…と雨の音を聞きながら、彼が消えていった道をひたすら眺めていた。







カナメ…

それしか分からなかった
ちゃんと名前聞きたかったのに…



「あーこの酔っ払いかぁ…全くこんな雨の日夜中に本当にもぉ…」



ふと気が付くと、警官が二人、酔っ払いの元に近付いてきていた。



私はそれを確認すると、再びギュッとお金を握りしめて、家に向かって歩き出した。

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