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近くて遠い
第14章 異変
「……ちょ………社長!!」
急に肩を揺さぶられて我に返った。
「ん…あぁ、すまない…」
握りすぎたか、手のひらに赤く爪のあとがついていた。
何か言いたげに社員の酒田が見ている。
「何の…話だったか…?」
この数日の事を回顧していたせいで、全く話が耳に入っていなかった。
「珍しいですね…社長がボーッとするのは…」
「……すまない…」
返す言葉もなくただ謝ると、酒田は余計に目を丸くした。
「なんだ」
「あっ、いや、ついでにいうと、謝りになられるのも珍しいので…」
「っ……黙れ。早く要件を言え」
酒田はいつものように戻ってしまった光瑠に肩をすくめると、小さくため息をついてもう一度口を開いた。
「吸収の件、先方のマイスターが渋ってまして…
それについての役員会議が…」
「渋る?こっちは、経営が成り立っていないのを助けてやろうとしてるんだ。
向こうに選択の余地はないだろう。」
光瑠は立派な社長室の椅子に腰掛けて、足を組んだ。
「いや、そうなんですが…マイスターという会社もそこそこ伝統があって…
それを立ちきれないというかなんというか…」
伝統…?
くだらない…
そんなもので経営は出来ない。
助けてやろうという手を振りほどこうとするなんて、弱った奴のすることではない。
黙って吸収されればいいものを。
「2ヶ月前はそんなことを言ってなかっただろう!
グダグダと、役に立たないな、お前たちは。」
繊維、機械、金属、保険、建設、金融…
様々な分野に傘を拡げる有川商事。
不景気の煽りを受けながらも、何とか好調にやってきていた。
だが、最近どうも会社の動きが鈍り出している…
その理由は誰もが分かっていた。
「すみません…
実はもともとは関根さんが二年前この会社にいらっしゃったときからやっていた案件で…
あっ、そういえば、関根さん、近々社長宅にあいさつに伺うと仰ってました!」
「関根…?そうか、もう大丈夫なのか…」
光瑠は安堵の溜め息を洩らした。
会社の動きが鈍っていたのは、光瑠の右腕として優秀に働いていた関根の不在が明らかだったからだ。
急に肩を揺さぶられて我に返った。
「ん…あぁ、すまない…」
握りすぎたか、手のひらに赤く爪のあとがついていた。
何か言いたげに社員の酒田が見ている。
「何の…話だったか…?」
この数日の事を回顧していたせいで、全く話が耳に入っていなかった。
「珍しいですね…社長がボーッとするのは…」
「……すまない…」
返す言葉もなくただ謝ると、酒田は余計に目を丸くした。
「なんだ」
「あっ、いや、ついでにいうと、謝りになられるのも珍しいので…」
「っ……黙れ。早く要件を言え」
酒田はいつものように戻ってしまった光瑠に肩をすくめると、小さくため息をついてもう一度口を開いた。
「吸収の件、先方のマイスターが渋ってまして…
それについての役員会議が…」
「渋る?こっちは、経営が成り立っていないのを助けてやろうとしてるんだ。
向こうに選択の余地はないだろう。」
光瑠は立派な社長室の椅子に腰掛けて、足を組んだ。
「いや、そうなんですが…マイスターという会社もそこそこ伝統があって…
それを立ちきれないというかなんというか…」
伝統…?
くだらない…
そんなもので経営は出来ない。
助けてやろうという手を振りほどこうとするなんて、弱った奴のすることではない。
黙って吸収されればいいものを。
「2ヶ月前はそんなことを言ってなかっただろう!
グダグダと、役に立たないな、お前たちは。」
繊維、機械、金属、保険、建設、金融…
様々な分野に傘を拡げる有川商事。
不景気の煽りを受けながらも、何とか好調にやってきていた。
だが、最近どうも会社の動きが鈍り出している…
その理由は誰もが分かっていた。
「すみません…
実はもともとは関根さんが二年前この会社にいらっしゃったときからやっていた案件で…
あっ、そういえば、関根さん、近々社長宅にあいさつに伺うと仰ってました!」
「関根…?そうか、もう大丈夫なのか…」
光瑠は安堵の溜め息を洩らした。
会社の動きが鈍っていたのは、光瑠の右腕として優秀に働いていた関根の不在が明らかだったからだ。