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近くて遠い
第15章 芽生え
「……肩書きがほしいか…?」


光瑠さんはそう言いながら、抱き締める力を強くさせた。


「いや…そういうわけじゃ…ただ、私って光瑠さんの何なのかなって…
ごめんなさい…こんな身分で…」


何もかんもない。

私は三千万で購入されたものであって…


充分承知の事なのに、
色々有りすぎてその認識が甘くなってしまった。


「…本当の事にするか……」


「え…?」


顔も見えない。


ただ頭から降ってくる言葉。

本当の事にする……?
何の事だろうか。


不思議に思っていると
フワリと身体が解放された。


光瑠さんは熱っぽい目で私を見下ろすと、私の後頭部に手を添えた。


「……俺は…

お前に傍にいてほしい…

だから、お前の母についた嘘を…


婚約を本当のことにしてもいい…」


「えっ…?!…えっ、ええっ?!」


光瑠さんは驚く私に構わず目を閉じると、私の頬から首筋に音を立ててキスをいくつも落とした。


婚約を本当のことに……!?


それって…


「ちょっ…待って……ん、光瑠さんっ…」



ずっとキスを落とし続ける光瑠さんの胸を何度も私は叩いた。


すると光瑠さんはフッと顔を上げて、また至近距離に顔を近付ける。



「いやか…?」


艶く瞳に軽い目眩が襲った。


「っ………いやっていうか…なんか色々ぶっ飛び過ぎて…」



私がそういうと、
光瑠さんは急に我に返ったような顔をして、私をゆっくり放した。


婚約……って、
当たり前だけど、
結婚するってことだよね…

結婚するってことは…

私のこと…好きって……事?


心の中でそう自問する。


だけど


それでもやはり、

彼は…


愛の言葉を囁かない。



「光瑠さん…私…」



「もう遅い…この話はまた今度だ。」



「……」



光瑠さんは私の言葉を遮ると、チラと私を一瞥して部屋を出ていた。




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