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近くて遠い
第16章 朝食の味
確か、自分でやるときは右を上にして左から…

向かいになってるってことは左を上にして…


えぇ?んん……


うまくいかない。


目を瞑って自分がやるときのことを思い浮かべるが、どうも反転すると訳が分からない…



眉間に皺をよせて右が…左が…とぶつぶつ言っていると、光瑠さんはいつの間にかお箸をおいて、私の頬を撫でた。


ん…?


不思議に思ってネクタイから視線を横にずらすと光瑠さんが意地悪く微笑んでいた。



「下手だな。それじゃあメイドは無理だ。」



光瑠さんはそういいながら、ネクタイを持つ私の手を掴んで見つめた。


「っ……」




あ……



吸い込まれる…




光瑠さんは私を支えていたもう片方の手で、私の後頭部を支えると、ゆっくりと私を引き付けた。



「んん………」




目を閉じると、


柔らかくて熱い唇が重なった──



私の手を掴んでいる光瑠さんの手が、焦れったく開いて、指を絡ませる。


それとほぼ同時に入り込んできた、光瑠さんの舌も、同じようにゆっくりと私の舌を絡ませてきた。



「んっ……ふぅっ…」



微かに広がるブドウの味。


ゆっくりと味わうような舌の動きが、私の脳髄を痺れさす──



キモチイイ……



私は自らも舌を動かして光瑠さんのキスに応えていた。


激しくて、

噛み付くようなキスとは違う……


ゆっくりと、


隅々まで味わい尽くすような大人のキス───



「んんっ……」



「……はぁ…」



吐息と水音だけが洩れて、身体がウズウズとし出す。


なのに、私と光瑠さんはひたすらキスだけをし続け、


舌を絡めることで会話をしていた。




どれくらい、そうしていただろう…


余計な考えは全部頭から消えて、その時間を私は楽しんだ。



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