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近くて遠い
第23章 信頼関係
────────…

タブレットをタッチしながら、酒田はそこに書いてあることをすべて目の前の相手のために読み上げた。



「おかしいな、俺がやってたときはそんなに火の車状態ではなかったぞ…?」



「そうなんですよね…これ後になってから一気に出てきたみたいで…」


あぁもう…と投げ槍に酒田が吐く。



「……あがいて、ヤミ金にでも手を出したか」



「かもしれませんね…」



二人は同時に溜め息をつくと、別の社員が用意したお茶をすすった。



株式会社マイスターの吸収



当初要が担当しており、話は円滑に進んでいたはずが、2ヶ月の要の不在の間に先方の反応が鈍り出した。


「関根さんの時は難なくいきそうだったのに…やっぱり僕はまだまだですね…」


「おいおい、弱気になるな。たまたまだよ、時期が悪かっただけ。それに元からマイスターは伝統を気にしてたしな。」


弱気な声を出す酒田を要が優しく宥めた。


「そういう優しさが僕には足りないんでしょうな…」


「別に俺は優しくなんかない…」



伝統やら、権力やら、なんやら、くだらないとは言っても当の本人には重大なものである。


要はそこをうまく慮って契約を進めていたのだ。



「……やっぱり、関根さんの後任は荷が重い…」



酒田はキリキリと痛む胃をさすった。


「そんなこというな…俺だって本当は…」


まだまだ仕事がしたい──という言葉が出そうになってギュッと口を引き結んだ。


いけない。

気を緩めるとすぐに後ろ向きな発言をしてしまう…。


「……すみません。」


要の意を汲んだのか、酒田も悪いことを言ったと即座に謝った。



「謝るな。今のは俺が悪かったよ。」



こうやって人に気を使わせてしまうのが嫌だというのに…


要はつい漏らした本音に後悔の念を抱く。



疲れた…

何もしていないに等しいのに…


要は静かになった部屋で酒田がどういう顔をしているのかを考えることすら、嫌になっていた。





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