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近くて遠い
第23章 信頼関係
「えぇ……」


肩を落とす隼人に満足そうな光瑠さんの顔…。


「まぁ、今度見えたら1分は見続けなきゃダメだな。」



「1分っ!?」


光瑠さんの言葉に私が声を上げた。


1分もあんなキスしたら死んじゃう…


「じゃ、俺は着替えたら会社にいく。」


そう言って光瑠さんは何事もなかったかのような顔をして立ち上がった。



「いってらっしゃーい!」


手を振る隼人に光瑠さんは片手を上げると、私に目配せして庭から去っていってしまった。


なんて人だ…未だに全くペースが掴めない…


ふぅ…と息をついて背もたれに寄り掛かるとするりと上着が肩から落ちた。



「あ、」


上着返さなきゃ…


「光瑠さんっ!」


まだ見えるその姿に声をかけると、光瑠さんは、クルリと振り返った。


「これ、ありがとうございます。」


駆け寄って上着を渡すと、光瑠さんはあぁ、と言ってそれを掴もうとして止まった。


…?


どうしたんだろう。


不思議に思って首を傾げると、光瑠さんは上着を掴んだ手を離した。


「やっぱ着とけ。」


「え?」


「まだここにいるんだろ?」


光瑠さんは遠くて走り回る隼人を見つめた。


「た、多分…」


「俺はどうせ着替えるから。お前はそれ着とけ。」


不器用な優しさに、胸がキュンと鳴る。


「ありがとうございます…」



「同じベッドで寝てるんだ、風邪でもひかれてうつされたら困る。」


「なっ…」


本当に、一言余計というか…


ギュッと口を引き結んだ私を光瑠さんは無表情に眺めていた。



「……今日も遅い。待ってなくていいからちゃんと寝てろ。」


「……分かりました。」



私の言葉を聞くと、光瑠さんは私の頭をポンポンと、撫でて、庭から出ていった。


もっと素直に優しくしてくれればいいのに…


そんなことを思いながら、私は渡された上着を羽織って口元を緩めた。

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