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近くて遠い
第24章 究極の選択
─────────…



扉をスライドさせた音がすると


「どうぞ」


と看護婦が要の手を引いて診察室へと促した。



「はい、じゃあこちらに。」



中に入ると病院独特の消毒やらなんやらの匂いが要の鼻を掠める。


看護婦に導かれるまま医者の前に座ると、要はこんにちは、と丁寧に挨拶をした。


「身体の具合は?」



「随分いいです。痛みもないですし。」


しがれた声に要は答えると、両肩を回して見せた。



「それは良かったです。」


まるで何かのセリフのような淡白な言葉を医者が放つ。


本題が別にあると言いたげなその語り方に、要は一人静かに覚悟をした。



「で、さっきのレントゲンなんですがね…」


案の定、医者は話を変えてパチッと何かのスイッチを押す音が響く。



「眼ですか…」


「そうです。」



ジィ───と機械の音が部屋に響いていて


要はそれを不快に感じた。



「以前、破片が視神経を圧迫している──と私が言ったのを覚えてらっしゃいますか?」



医者は要の膝に軽く手を乗せた。



さぁ…


そんなことを言っていただろうか…、言われた記憶も、言われていない記憶も要にはない。


「そうだったかもしれません。」




要が言葉を濁す。


「…事故に遭ったばかりの頃なので、忘れていても不思議ではありません。」


そう医者が言ったあとさらに説明を続ける。



「関根さんの、眼球自体は全く傷付いていない。綺麗なままなのです。」



「はぁ…」



一体何が言いたいのか、要はよく分からず気の抜けた返事を返した。



「網膜、脈絡膜、強膜…すべて無傷でしっかりと光を受け取っているんです。」


何となく、聞いたことがあるような医学用語を要はただ耳で拾っていた。


それにしても回りくどい医者の言葉にイライラが募る。



「でも、見えません。」



少し語気を強めて要は医者の説明を遮った。


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