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近くて遠い
第25章 符合
「ふっ、バカらしいでしょ…?」


「そんなっ…全然…」


苦しくて、うまく言葉が出せない。


バカらしいだなんてそんな事思うわけない…


だって私はあの時要さんに──



「一目惚れなんか、したこともなきゃ、信じたこともなかったんですがね。自分でも、びっくりするくらい、彼女に引き込まれました──」



その時の事を思い出しているのだろうか…


要さんの言葉は落ち着きながらも少しだけ興奮が垣間見える。



───────頑張ろうって思わせてくれるような…そういう人に出会ったから…頑張れるんですかね



きっと…この前言っていた人だ…



「……その方は、とても幸せでしょうね…要さんみたいな…素敵な方に想われて…」



気を付けたつもりだったのに、私の言葉はひどく震えていた。


「随分優しいことを言って下さいますね。」


「本当の…ことです…」


思ったままのことを私は言ったのだから。



「嬉しい。ありがとうございます。でも…」


「でも…?」


遠くを見つめる要さんの顔が少しずつ歪んでいった。




「もしかしたら、一生会えないのかもしれない…」



「え…?」



どういうことだろう。

もうすでにその人と共にいるのだろうと思っていた私は要さんの言葉に様々な思いを巡らせた。



どこか遠くに行ってしまったのだろうか…?


要さんの手の届かない所へ…




「それはどういう──」



「彼女に出会ったのは、奇しくも僕が事故に会ったその日なのです…」



ドクンと心臓が鳴った。


踏み込んでは行けない場所に、ズルズルと引っ張られているような…


まさか…


いや、そんなはずない──


そう自分に言い聞かせるけど私の手は微かに震えていた。



要さんはそんな私の様子に気付くはずもなく、言葉を続ける。



「雨が降っていましてね。」



そう、あの日は雨が降っていた。



「彼女は傘もささずに雨に打たれてて──」




私は傘はささない。

だって神様が…私をキレイにしてくれる気がするから──



「みすぼらしい格好で、力強く自分と格闘していました。」




あの財布が手に入ったら

お母さんを病院に…

隼人にハンバーグを…
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