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近くて遠い
第29章 虚構の愛、真実の愛
部屋につくと、私はソファーに倒れこんだ。


私を追い掛けていた愛花ちゃんも涙を流しながら、真希様真希様と仕切りに私の名前を呼ぶ。



信じたものは


全部全部、幻だった。


苦しい。


どうしてこんなに苦しいんだろう。



「光瑠さん…」



どこにもいくなとあなたは私にではなく、私に映った悠月さんに言っていたのね───




「動機は何であれっ…ご主人様は真希様を愛してらっしゃいます!絶対に…絶対に…」



「愛花ちゃん…」



私は涙で頬を濡らしながら、同じく涙を流す愛花ちゃんを見つめた。



光瑠さんが私に固執する理由。


そして…



「光瑠さんは、私に『愛してる』って一度も言ってくれたことないの…」




彼が愛を囁かない理由。






「そんなっ…そんなっ…」



愛花ちゃんの泣き声が遠くに聞こえる。


彼は

私の事を愛してなんかない。


愛しているのは


もうこの世にいない人…



私は単なる

人形に過ぎなかった──


あぁ


なのに私は…


光瑠さんに愛されていると、そう勘違いをしてしまった。



なんてバカで


なんて憐れなんだろう…



苦しい…


息が出来ないほどに…




ギィ─────…と扉が開く音がした。



こんなに私が弱っているときに現れるのは一体……



「真希さん…」



顔を上げずとも私はその声の持ち主が誰なのか分かった。



「っ…要さんっ……」



彼はいつも私が弱ってさまよっているときに現れるのだ…



「……少しお話したいことがあります。」



つかつかとステッキをつく音がする。



こんなにズタズタな状態で話すことなど出来ない…


なのに、信じていたものを失った私は、卑怯だと分かって都合良く彼の優しさを欲している。




「…っ……どっ…どうぞ、こちらに…」



そう声を掛けて私はソファーへと要さんを導いた。





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