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近くて遠い
第29章 虚構の愛、真実の愛
「そんなっ…」


と愛花ちゃんが息を飲む音がした。



古畑さんが苦しそうに口を開く。




「名前は…」






───────悠月っ…






「ゆ…づき…さん……ね…」



私の言葉を聞いて、古畑さんがびっくりした顔をして私を見た。



「ご存知だったのですかっ…」



急に目の前が真っ暗になった。



「そんなことっ…だって、こんなに真希様にっ…」



隣で泣き崩れる愛花ちゃんが何を言いたいのか、



古畑さんも私も分かっていた。





「………私も真希様に最初にお目に掛かったとき、悠月様に似てらっしゃって驚きました」



初めて会った日──


覚えている…


古畑さんは私の顔を見て、しばらく固まっていた…


ずっと疑問だった。




氷をこぼした私を、強く掴んで見つめた光瑠さんのあの驚きの瞳…



───────こいつを部屋につけろ



どうして何の取り柄もない私を光瑠さんが三千万も出して買おうとしたのか…



「悠月様はずっと笑顔でいらっしゃった、それは心優しい方で…」




─────お前は、俺のことを想って、俺の傍でただ笑っていればいいっ!!





あの言葉の



本当の意味──



「悠月様が亡くなられて、光瑠様は壊れてしまった……
でも、そんな光瑠様を救ったのは、真希様、あなた自身です…!」




やめて、そんな言葉…気休めにもならない…




「真希様は悠月様ではない…。活発で、何事にも一生懸命で気丈で…皆に優しくて…光瑠様も今は真希様自身を──」



「やめてっ!!」



もういいから…


もう……



「真希様っ!!」



私は自分の部屋に向かって懸命に走った。



今まで経験したことがないほど胸が苦しい…


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