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近くて遠い
第29章 虚構の愛、真実の愛
「っ、は、離せ!」



「おかえりーーー!」



何故か髪から服までびしょびしょに濡れた隼人が顔を上げて光瑠を見つめていた。


「っ…傘はどうしたんだっ!」


「美咲ちゃんにあげたっ!」


隼人の答えに光瑠は眉をしかめた。


「美咲?あげたってお前…」


びしょびしょに濡れる隼人に離れるように言って、光瑠は隼人を傘に入れた。



「だって、僕、美咲ちゃんと結婚したいんだもん!」



訳の分からない隼人の言葉に光瑠ははぁ、と小さく溜め息をついた。



「お前、真希と結婚するとか言ってただろうが…」



光瑠の言葉に、隼人は美咲ちゃんに変えたー!と返事をした。



なんて気まぐれなんだろう、と光瑠は8児にそんなことを思った。



「だから、光瑠はお姉ちゃんと結婚していいよー!」


「……そりゃどうも。」




光瑠は素っ気なく答えながら、再び歩き出す。




「チュウはしちゃダメだけどねっ!」


光瑠はあののどかな庭での日々を思い出しながら、横目で隼人を見下ろした。



「……言っとくが、傘をあげたくらいで、結婚なんか出来ないぞ。」


と光瑠は小さな仕返しのつもりで大人げなくそう言った。



「えーーなんでー!!ひかるとお姉ちゃん結婚するじゃんっ!!」



隼人が強くズボンを引っ張るので光瑠は軽くよろめく。



「はっ…?どういうことだ。」



「だってひかるが雨の日にお姉ちゃんに傘あげたんでしょー?」




傘をあげた…



どこかで…


どこかで聞いた話だ…。



だがしかし、




「それは…俺じゃない…」




キョトンしている隼人の顔を見ながら、光瑠は屋敷の扉を開いた。




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