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第29章 虚構の愛、真実の愛

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車の窓に激しく打ち付ける雨を見ながら、光瑠は微かに心を踊らせていた。


「とりあえず、難なく終わって良かったですね。」


ふぅと息をついた酒田に、そうだな、と機嫌良く光瑠は返事をした。



もう家に着く。


早く真希に会いたくてウズウズする胸をどうにか落ち着けようとするが、どうにもならないまま、溜め息だけ何度も洩らしていた。



「僕はとりあえず会社に行きますね。」


「分かった。」


酒田の言葉に返事をすると、ついに車は会社の前に着いた。


「酒田、」


「はい。」


身の回りの物をまとめていると酒田に光瑠が声を掛ける。


「ご苦労だったな。しばらくはゆっくり休め。」



そんな光瑠の稀に聞く労いの言葉に、酒田はうっかり涙しそうになりながらコクリと頷く。



「では。」


そう言って車から降りた二人は手を上げて別れのあいさつをすると、酒田は会社に、光瑠は自邸へと進んだ。



傘を指しながら歩くが随分強く降るせいでズボンの裾が濡れる。

だが、光瑠はそんなこときにせず足を早めていた。


荷物をたくさん持った運転手が後ろからそんな歩幅の広い光瑠に小走りで追い掛ける。



丁度その時、別の車が有川邸に戻ってきていた。


背後でガチャッと扉の開く音がすると、勢い良く走る足音が雨音の中で光瑠の耳にも届く。



誰だ？


そう思って振り返ろうとした時、




「ひかるーーーー！」



と叫びながら、送迎の車から隼人が飛び出して光瑠の足に巻き付いた。