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近くて遠い
第34章 Sweet Night
「これは、隼人に。」



再び斎藤さんの待つ車に乗り込むと、要さんが紙袋を私に差し出した。



「えっ?!いつの間に!」


「真希さんが、おいしーっていいながらトリュフチョコレート食べてた時です。」


要さんは私の声真似をするもんだから、恥ずかしくてどうしたら良いか分からぬまま、ひたすらすみませんといって、紙袋を受け取った。


「さぁ、次行きましょう」

要さんの声に反応したのか、車がゆっくりと動き出す。



「今度はどこに…?」



「ここまでは、隼人も喜ぶと思って考えたのですが……次は大人な場所に…」


「っ……」


大人な場所っ…?ってどこっっ…?



「ふっ…今何を考えました?」


要さんが動揺する私を見て、からかうような笑みを見せた。



「べっ、別にっ…」



どう頑張っても動揺は隠せない。


大人な場所という含みを持たせた言い方に何故か身体が固まってしまう…



「大丈夫ですよ、ただのバーですから」



ニッと笑った要さんを見て、何だか完全に流されているような気持ちになった。


ネオンで輝く街の中を車が走行して行く。



周りを見れば、どれも高級車だ。



少しだけ、radiceのあったあの夜の街を思い出した。



急にやめてから、全く顔を出していない。


みんなのことをよく見ていた幸ママ、テキパキと仕事をこなしていたボーイの拓也さん、


そして…夕夏さん…



「要さん…」



ハッとして私は要さんに声を掛けた。



「はい?」



「あの……貸していただいた傘なんですけど…」



私と要さんを繋いでいたあの一本の傘。



「壊してしまって…」


目の前で無情に壊されたあの時の恐怖と怒りが甦る──

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