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近くて遠い
第1章 雨に打たれて
「うっ……」
ふーっと男が吐くアルコールの香りに思わず声をつまらせた。
スーツは雨のせいでびしょびしょ、おまけに転んだせいで白いワイシャツに泥までついている。
「あの~大丈夫ですか~?」
確かこういうときって、あんまり身体揺らしちゃいけないんだっけ…
学校で微かに習った記憶を私は必死に思い出そうとした。
男はにゃむにゃむと口を動かすと、急に豪快なイビキをかきはじめた。
「寝てるの……?」
どうしよう…こんな男の人私の力じゃ運べないし、第一どこに運んだらいいのか…
いや、近くに交番があったはず。
一回この人はこのままにしてお巡りさん呼んだ方がいいのかな?
頭をフル回転して、結局私は交番に行こうと立ち上がった。
すると、男は寝返りを打った弾みに何かがポケットから飛び出した。
何だろう…?
不思議に思った私は再びしゃがみこんで、その黒い物を掴んだ。
「はっ…」
思わず息を飲み込んでそれから手を放した。
財布だ………
それはパンパンに膨らんだ男の財布だった。
途端に私の心に黒いものが沸き出した。
今、この人を見捨てて、あの財布を持って帰ったら──
お母さんを病院につれていけるかも…
隼人に大好物のハンバーグを作ってやれるかも…
それから…
それから…
ふーっと男が吐くアルコールの香りに思わず声をつまらせた。
スーツは雨のせいでびしょびしょ、おまけに転んだせいで白いワイシャツに泥までついている。
「あの~大丈夫ですか~?」
確かこういうときって、あんまり身体揺らしちゃいけないんだっけ…
学校で微かに習った記憶を私は必死に思い出そうとした。
男はにゃむにゃむと口を動かすと、急に豪快なイビキをかきはじめた。
「寝てるの……?」
どうしよう…こんな男の人私の力じゃ運べないし、第一どこに運んだらいいのか…
いや、近くに交番があったはず。
一回この人はこのままにしてお巡りさん呼んだ方がいいのかな?
頭をフル回転して、結局私は交番に行こうと立ち上がった。
すると、男は寝返りを打った弾みに何かがポケットから飛び出した。
何だろう…?
不思議に思った私は再びしゃがみこんで、その黒い物を掴んだ。
「はっ…」
思わず息を飲み込んでそれから手を放した。
財布だ………
それはパンパンに膨らんだ男の財布だった。
途端に私の心に黒いものが沸き出した。
今、この人を見捨てて、あの財布を持って帰ったら──
お母さんを病院につれていけるかも…
隼人に大好物のハンバーグを作ってやれるかも…
それから…
それから…