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近くて遠い
第8章 助けと契約
凛とした幸ママにトクンと心臓が鳴った。



「───そもそも、いじめだなんて、中学生じゃあるまいし、くだらないっ。ちょうど良かったのよ、あの娘No.1にのぼせていたから。少し頭を冷やすチャンスね。」


そう厳しく言い放った幸ママの顔はただのママではなく、頼れる先輩だった。


幸ママは、夕夏さんのことも、私のこともよく見てくれている…



そして、私は家族以外にこんなに自分のことを考えてくれる人に出会えたことに一人密かに胸を熱くした。


「そうはいうけど…やっぱり今日桜子来てくれて助かったわぁ」


厳しい顔から一転して目尻を下げる幸ママに私は微笑んだ。


「なんかすることありますか……?」


私の言葉に待ってましたとばかりに幸ママは顔を明るくする。



「フロア入ってくれる?週末だから賑わっちゃって…夕夏の穴も埋めなきゃだし…」



幸ママはガヤガヤと賑わうフロアを見渡した。



フロア…か…




何故かガッカリしている自分がいた。



遠くのVIPルームを見ると、ドアが開いている。



来てないのか…


その視界に慌ただしく動く拓也さんが入った。



「あ、オーナー、と桜子!?なんだもう復帰か?」





「拓也さん!すみません、昨日は心配お掛けして…」



「いやいや。ていうか肩はど?」




拓也さんの視線が私の肩に注がれて少し恥ずかしくなった。



「大したことなかったので…大丈夫です。」



少しだけ生やした髭元が優しく上がる。



「拓也。桜子フロアに入れるわ。」



「了解です。ちょっと確認します!」



インカムでボーイ同士で連絡を取る拓也さん。



てきぱきと仕事をこなすその姿は本当に素敵でかっこいい。



「はい…あぁ…C2?了解。」


拓也さんは連絡を取り終わると幸ママをみた。



「C2の原田様のところに入ってほしいみたいです。」



「原田様か……うーん、ちょっと心配だけど…」



顔を潜めて幸ママが私をみた。



「大丈夫ですよ!誰でもつきます!」



有川様のあの扱いに慣れてるんだもの…

きっとどんな人でも大丈夫なはずだ。



私の自信まんまんの返事に幸ママは渋々了承し、私をCフロアの2番のテーブルに送った。
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