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近くて遠い
第9章 夢と現実
─────…


身体を惑わせたアルコールはとっくに冷めて、何かに導かれるように夜の闇の中を歩いた。



─────これは契約だ




無情に突き付けられた言葉が頭を巡って離れない。




それと同時に浮かぶ乱暴で強引なキス…





有川様がお母さんのことを口にした瞬間、原田と加山の前で見せた雄々しい姿は幻覚であったことに気付いた。


短い夢から一気に覚めたのだ。



ひどい…


私が断れないのを知っていて…



地面に水滴が落ちていく。




雨だ──…




もし有川様のいう契約に承諾すれば、もう翌日の食べ物に困ることもない。

隼人を安心して育てることも出来る。


三千万という父の借金のしがらみからも解放されて…。



そして何より、お母さんの治療をすることができる…。



それが私の人生を売ることの対価…。



私は特に取り柄がある訳ではないから、これが有川様のいう通り、よい条件であることは考えなくても分かること…。




でも、だけど、もし承諾したら…




「カナメさん…」



今日と同じように雨の日だった。

すべてが敵となり、自分が変わってしまいそうになった時に唯一手を差し伸べてくれた彼を簡単に忘れることができない…



初めて男の人を想った。


17年生きてきて初めて胸がときめき、これが恋なんだと知った。



もしかしたら…





ふと気付いたら私はあの日カナメさんと出会った商店街を歩いていた。
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