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近くて遠い
第11章 歪み
生まれたときから、光瑠は何不自由なく暮らしてきた。


父は有川家の当主。

母は元女優。


地位も容姿にも恵まれ、ひもじい思いなどもちろん一度もしたことはない。



幼少期はまだ両親から愛情を受けた記憶があった。



厳格な父を光瑠は幼いながらも尊敬していたし、いつまでも美しくあろうとする母の香水の匂いも好きだった。


だが、元女優であった母には、この有川家はあまりにも自由がない場所に感じられたようだ。



口数が少ない上に、仕事を忙しくする父と母の仲がだんだんとこじれはじめたのだ。



光瑠が15歳の頃だった。



母が車の事故で突然この世から去った。



衝撃だったのは、一緒に乗っていて共に命を落としたのが母の愛人だったことだ。


そして二人は新たな人生を送ろうとしていたらしい…



母は、父に愛想を尽かして、よそで作った愛人と逃げようとしたまさにその時に事故に合ったのだ。



母を失って悲しいはずなのに、自分が知らぬ間に捨てられたのだという事実に怒りが先行し、光瑠はお葬式でも一滴も涙を流さなかった。


華やかな世界で、周りにちやほやされながら生きてきた母が、退屈な日々に耐えられなくなり、刺激を求めた気持ちは分からなくもない。


そう理屈では分かっても、光瑠にとってやはり母は女優である前に母だった。

いや、母でいてほしかった。


死んでしまっては、怒りをぶつけることさえできない。

光瑠はやり場のない怒りに苦しみ、荒れた。



しかしそれは光瑠だけではなかった。


父もまた妻の死と裏切りを受け入れられずに、毎日酒を浴びるように飲むようなった。



尊敬していた父の威厳の失墜。



光瑠はそんな父から段々と距離を置くようになった。



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