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第11章 歪み

「光瑠……。」


光瑠がどんなに難しい顔をしていても、いつも傍で笑っていたのが幼なじみの悠月だった。



「俺の気も知らないでいつもヘラヘラするな」


そう光瑠が冷たく言い放っても、悠月は絶対に優しい笑顔のままだった。


「光瑠の気持ちは分からないわ。でも、笑っていた方が楽しいじゃない？ね？」



悠月は向日葵のような少女だった。



いつも太陽の方を向いていて、力強く前向きに生きている。


そんな悠月に光瑠が心惹かれたのは当然のことだった。


そして光瑠が二十歳になった直後、


父が自殺を図った。


発見したのは光瑠だった。

首を吊ってぐったりとする父の脇には、遺書だけが残されていた。



大人になって、悠月が傍にいてくれたこともあってか、心に余裕が出来た光瑠。

そんな光瑠が母の死を境に複雑にこじれてしまった父との関係を少しずつ修復しようと思った矢先の出来事だった。




遺書には、すべての資産と権利を光瑠に引き継ぐことと、有川家の名誉のために、心臓発作ということにしてくれとだけ書かれていた。



「心臓発作ですって怖いわね。」
「もちろん跡は一人息子の光瑠様継ぐのだろうな？」
「新しいプロジェクトの資金を…」
「これからは光瑠様との繋がりを大切に…」



あちらこちらから囁かれる話を光瑠は茫然としながらもしっかり聞いていた。


数々の著名人からの上辺だけの言葉。


みんな光瑠を有川家新当主としてしか見ておらず、親を亡くした子としては見ていなかった。





勝手に死を選び、息子への謝罪よりも、自殺を心臓発作ということにしろという見苦しいプライドを優先させた父が憎かった。



「光瑠、大丈夫。私がいるでしょ？」



金と権威に群がる人々に溢れるなか、悠月だけが唯一光瑠の身を心配し、笑顔を絶やさなかった。



母にも父にも見捨てられた光瑠は、悠月の優しさに触れて、堰を切ったように泣いた。