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不良の彼は 甘くて強引
第11章 ベンチ
法学部の校舎の前にはちょっとした芝生の広場があって
そこの隅にあるベンチに座って勉強するのが、わたしのマイブーム。
木の陰になって人目も少ないから安心して集中できる。
鞄から参考書を取り出す柚子。
取り出した拍子に、一枚のルーズリーフが膝の上にはらり落ちてきた。
「…あ」
あの時
匠さんが解いた問題だ。
ずっと挟まってたのね…。
柚子は懐かしげにその難解な数式で埋め尽くされたルーズリーフを見ていた。
結局、匠の解放は奇抜すぎて役には立たなかった。
答えこそあっていたが……。
“でもこれを30分で解いちゃうあたりやっぱり医学部よね”
文系の問題だと記述があったので、匠はきちんと数Ⅲの範囲を使わずに解いていた。
「そうは言っても、ここでベクトル使おうなんて思うかな?普通…」
ま、普通の人じゃないか。
大きめな独り言。
「──…ハァ」
柚子の目はルーズリーフから離れ、目の前をちょこまか横断する蟻に向けられていた。
「……」
あの時
バイトに行かせて下さいって頼んだら
匠さん怒っちゃったみたい。
何故かはわからないけど…。
なんかムスッとして
わたしを離して
不機嫌そうに、「帰れ」って
でも不思議と、その時の匠さんは全く怖くなかったのよね。
不機嫌だったけど。