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不良の彼は 甘くて強引
第16章 海


声にならない悲鳴とともに
二つの影が水面でダイブする。



ザッブーン!!!



「──…ぷはっ!!」


顔を出した柚子は顔にへばりついた長い黒髪を掻きあげた。

驚いた拍子に水も呑んだようで激しくせき込む。


「…ケホッ、ケホッ!!……な、何してるんですか!?」


珍しく声を荒げる柚子を、匠は可笑しそうに掻き抱いていた。



その表情はいかにも楽しそうで………


そう、楽しそうだったの──


それはまるで、母親に悪戯してかまってもらおうとする少年のような……。



そう思った瞬間、柚子の胸から不意に笑いがこみ上げてくるのを感じた。



「──ふふっ、…ケホッ、……どうしたんですか?」


「…ふん、何だその笑いは、…気に入らないな」


「だって匠さんが子供みたいな事するから…、……ふふッ……離して下さい!!」


「離してやると思うか…?」



恥ずかしげに下を向く柚子を、匠は正面から抱き締める。

彼女が抵抗するたびに、周りの水面がバシャバシャと波打ち水しぶきがあった。



匠は柚子の自由を奪ったままその顔を覗き込もうとするが、照れを隠しきれない柚子は一向に彼と目を合わせようとしない。


そこでついに匠が痺れを切らし、柚子の顎を引っ付かんで上を向かせた。


「………!!」


笑っていた柚子だが、匠の瞳に正面から射抜かれ一瞬で言葉を失う。



「あまり調子にのるなよ…」

「あ…、ごめんなさッ……」



柚子の謝罪の言葉は

匠の唇によって遮られる。




唐突なキスは

この男の常套手段だ──





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